遠藤印刷 代表の遠藤です。日商簿記2級を保有し、大手ゼネコンでの施工管理経験を活かした徹底的な品質・工程と工数管理を強みとしています。創業55年の現場力を活かし、お客様の印刷業務における効率化とコスト最適化の支援に日々邁進しております。

 本記事は、冊子の発注部数で迷いがある担当者の方向けに、欠品リスクと在庫コストを同時に下げる決め方を解説します。ポイントは「不足の損失は大きく、在庫の損失は静かに後から効く」という相反関係です。
 会議用は参加者+5部、単行本は需要×調達期間+安全在庫で、判断基準を仕組みにする方法をお伝えします。

冊子の発注数量の決め方|不足と在庫を同時に減らす実務ルール

部数決めが難しい本当の理由

冊子の部数を決定するのは、発注担当者にとって「地味に重い意思決定」です。

なぜなら、次の二つの損失の綱引きだからです。

・足りない損失:当日の配布が止まる、急遽参加した上席・顧客に渡せない
・余る損失:保管スペース、情報の陳腐化、処分、そして資金の滞留

しかも、人は「余るのは後で何とかなる」と思いがちです。ところが在庫は、気づかないうちに販管費を押し上げます。販管費は販売活動や管理にかかる費用で、営業利益は「売上高−売上原価−販管費」で決まります。ここが太ると、成長の原資が削れます。(出典:中小企業庁「31問31答」2009、販売費及び一般管理費の説明) (中小企業庁)

 印刷発注が本業ではない方が「迷わず決められる」ように、用途別にルールと数式を用意します。千代田区飯田橋で冊子づくりを日常的に支援している立場から、現場で効く基準に落とし込み説明いたします。

事業成長を止めるのは印刷代ではなく、積み重なる販管費

 多くの記事は「まとめて刷ると単価が下がる」と言います。確かに印刷は、部数が増えるほど1部あたりのコストが下がりやすい局面があります。
 一方で、大量印刷には「情報が古くなる」「紙が劣化する」「内容を変更したくなる」などのデメリットがあることも指摘されています。
 ここで重要なのは、在庫が「見えない費用」を連れてくる点です。一般に在庫の保有コスト(資金コスト、保管、保険、陳腐化リスクなど)は、年間で在庫価値の20〜30%程度になり得る、という説明が広く見られます。(出典:NetSuite “Inventory Carrying Costs”) (NetSuite)
つまり、余った冊子は「置いてあるだけで毎年コストが発生する資産」です。
 販管費が重くなると、営業利益が削れます。営業利益の定義自体も、売上から原価と販管費を引いたものだと整理されています。(出典:中小企業白書 2025 第2部資料内の定義) (中小企業庁)
だからこそ、部数決めは「印刷コスト最小化」ではなく、「総コスト最小化」で考えるのが合理的です。

用途別の部数決めルール 2本

ここから先は、用途で分けます。

  1. 会議・総会・社外打合せ(配布が止まると困るタイプ)
  2. 単行本・定期冊子(在庫が販管費になりやすいタイプ)

この二つは、最適解が違います。

1. 会議・総会・社外打合せ:参加者+5部が基本

なぜ「+5部」が効くのか

あなたの独自視点である「参加者+5部」は、かなり合理的です。理由は次の通りです。

・当日、上席が急遽参加する
・参加者が知人を連れてくる
・配布ミスや汚損が起きる
・議事録用に保管したい部門が出る

 ここで大事なのは、人は「不足の痛み」を強く感じることです。損失回避の点では、余りより不足の方が心理的コストが大きく、意思決定の満足度を下げます。
そのため「少し余らせる設計」は、関係者の納得を取りやすい設計でもあります。

例:30名のマンション総会の場合

前提を置きます。

・参加者見込み:30名
・必要配布先:参加者全員
・追加配布が起きる確率:そこそこある(ゼロではない)
・増刷が発生すると、再手配の段取りと時間が発生

このとき、基本式はこれで十分です。

推奨部数=参加者見込み+5部
30+5=35部

もし役員控え、管理会社控え、掲示用などの用途が確実にあるなら、さらに用途別に足します。

・役員控え 3部
・管理会社控え 2部
・掲示用 1部
合計追加 6部

この場合は 35+6=41部 です。

例:不足して増刷すると総コストが跳ねる

以下は、あくまで「考え方を掴むための例」です。単価や刷り仕様で変動します。

・1回あたりの手配固定費(版・段取り等のイメージ):20,000円
・100部前後の単価:280円/部
・少部数増刷の単価:420円/部
・余りの保有コスト:年25%、半年保管(年20〜30%になり得るという説明に基づく) (NetSuite)

この前提で、需要100部の冊子を次の3パターンで比較すると、総コストは概ねこうなります。

・100部を一括:48,000円
・105部(+5予備):約49,463円(余り5部の保有コスト込み)
・90部で不足し、15部を増刷:71,300円

この例により増刷がいかに高くつくかが見えます。
結論として、会議系は「少し余らせて、当日の停止を防ぐ」方が、総コストも心理的コストも下がりやすいです。


2. 単行本・定期冊子:平均出荷×リードタイム+安全在庫

 会議と違い、単行本や継続配布物は「余るほど販管費化」しやすい領域です。ここは数式で決めるのが強いです。

基本式:需要×調達期間+安全在庫

あなたが提示している式は、在庫管理の基本発想に沿っています。

発注点(目安)=1日の平均出荷量×調達期間(リードタイム)+安全在庫

ここでの要点は2つです。

・リードタイム中に売れる分を確保する
・需要ブレに備える安全在庫を「定量化」する

例:平均出荷 12部、リードタイム 10日 の場合

前提:

・1日の平均出荷量:12部
・リードタイム:10日
・リードタイム中需要:12×10=120部

安全在庫をどう置くか。最も簡単な運用は「リードタイム中需要の一定割合」を安全在庫にする方法です。例えば20%にすると、

・安全在庫:120×0.2=24部

したがって、

推奨発注量(目安)=120+24=144部

この「144部」を、次の意思決定に使えます。

・今の在庫が144部を下回りそうなら発注を検討
・在庫が十分なら、発注を遅らせて資金とスペースを守る

安全在庫が販管費に効く理由

 在庫保有コストが年20〜30%程度になり得るという説明がある以上、過剰在庫は金利や倉庫代だけでなく、陳腐化や廃棄も含む「総合コスト」になりやすいです。 (NetSuite)
さらに、在庫は会計上もキャッシュと利益のズレを生みます。売れない在庫は費用化されにくく、感覚的に「儲かっているように見える」局面があり得ます。(出典:中小機構系資料「中小企業の管理会計システム」売上原価と仕入・在庫の関係) (中小企業庁) 
 結果として、気づいたときには「置く場所」と「処理の手間」が販管費になって現れます。成長のための投資余力を守るには、在庫を作らない設計が必要です。

ありがちな落とし穴「多め」が正解になる誤解

 印刷は一定部数を超えると単価が下がりやすいです。
しかし、単価が下がるからといって多めに刷ると、次のコストが発生します。

・保管の手間(探す、数える、移動する)
・改訂時の廃棄
・情報更新が遅れ、機会損失
・在庫の保有コスト(資金拘束)

大量印刷のデメリットとして、情報やデザインが古くなる点なども指摘されています。
単価だけでなく、改訂頻度や置き場も含めた「総コスト」で判断するのが実務的です。


解決策:外注先に渡すと、部数決めが一気に楽になる情報

 部数を正しく決めるには、実は「印刷会社側が持っている情報」も重要です。外注先に、最低限これだけ伝えると、見積と同時に部数の助言がしやすくなります。

・用途:会議配布か、継続出荷か
・配布方法:会場配布、郵送、営業配布、書店等
・改訂頻度:年何回変わるか
・保管制約:置ける箱数、倉庫の有無
・リードタイム許容:増刷に何日まで耐えられるか
 千代田区飯田橋のように、近距離で小回りが効く外注先だと、増刷や分納の設計も含めて「部数の失敗」を減らしやすくなります。これは発注担当者の作業時間削減にも直結します。

いますぐ使えるチェックリスト

分類 目的・特徴 確認項目 結論(推奨ルール)
会議・総会系(配布停止が痛い) 当日に不足すると配布が止まり、対応コストが大きい
  • 参加者見込みは何名か
  • 上席が飛び入り参加する可能性はあるか
  • 汚損・配り直しの可能性はあるか
  • 配布以外の控え用途があるか
参加者+5部を基本に、用途分を加算
単行本・継続冊子系(在庫が販管費化) 余剰在庫が保管・資金拘束などの販管費になりやすい
  • 平均出荷は何部か
  • リードタイムは何日か
  • 安全在庫は何日分(または何%)か
平均出荷×リードタイム+安全在庫で機械的に決める

 部数が決まらない最大の原因は、判断材料が手元に揃っていないことです。遠藤印刷では、見積の前段で「用途」と「改訂頻度」と「リードタイム」から、会議用は参加者+5部、継続出荷物は需要×調達期間+安全在庫の考え方で、部数を一緒に組み立てます。

販管費を抑えることが、成長の鍵になる理由

 売上を伸ばす議論は派手ですが、販管費を抑える議論は地味です。
しかし、営業利益は「売上−原価−販管費」で決まります。 (中小企業庁)
つまり、同じ売上でも、見えにくいロスを減らした企業の方が、次の投資に回せる原資が増えます。
部数決めは、その入口にある「小さな経営判断」です。今日からは、センスではなく仕組みで決めてください。

Q&A

Q1. 参加者+5部は多すぎませんか

不足による当日の停止や再手配は、金額だけでなく調整工数を生みます。会議系は余りの損失より不足の損失が大きくなりやすいので、+5部は保険としてお考えください。

Q2. 予備を付けると在庫コストが増えませんか

増えます。ただし在庫の保有コストは年20〜30%程度になり得るという説明がある一方で、少量の予備(例:5部)は影響が限定的です。 (NetSuite)

Q3. 単行本の安全在庫は何%が正解ですか

正解は需要のブレと許容欠品率で変わります。運用が難しい場合は、まず「リードタイム中需要の10〜30%」など社内ルールを決め、実績で微調整する方法が現実的です。

Q4. 大量に刷って単価を下げた方が得ではありませんか

単価は下がっても、改訂・陳腐化・保管・処分の総コストが増え得ます。大量印刷のデメリット(情報の陳腐化など)も指摘されています。 (リアクト)
「単価」ではなく「総コスト」で比較してください。

Q5. 外注先に何を伝えれば、部数提案までしてもらえますか

用途、配布方法、改訂頻度、リードタイム許容、保管制約の5点です。これだけで「不足リスク優先」か「在庫圧縮優先」かが決まり、提案精度が上がります。

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※本記事の情報を利用したことにより生じた損害(直接・間接を問わず)について、当方は一切の責任を負いかねます。あらかじめご了承ください。

この記事を書いた人

代表取締役 遠藤豊明

新卒で大手ゼネコンに入社し、トンネル工事の施工管理を中心に建設プロジェクトに携わる。
工程・品質・安全管理や関係各所との調整業務を通じて、現場での進行管理を経験。
 その後、大手印刷会社にてITインフラ部門に所属し、社内IT基盤の運用・管理や業務システムの安定稼働を支える業務、拠点拡張プロジェクトに従事。
 営業活動を通じてお客様の課題解決を提案したいと思い、不動産賃貸仲介業務に勤務し、法人・個人双方の顧客対応や契約業務を通じて、現場目線での課題解決や調整業務に従事した後、有限会社遠藤印刷へ入社。